パレスチナ自治政府との和平交渉:水面下で進む? 2017.6.16

トランプ大統領は、イスラエルとパレスチナの和平交渉再開に意欲を示しており、イスラエル来訪時には、ネタニヤフ首相とアッバス議長双方に会い、双方に何らかの圧力をかけたもようである。

その内容については、明確には報道されておらず、じわじわとその動きが現れてきているが、全貌はまだ明らかではない。これまでに表面化してきていることは以下の通り。

1)パレスチナ自治政府は、テロリスと家族への給与支払いをやめること

トランプ大統領は、アッバス議長に対し、”殺人や暴力”でイスラエルに逮捕されたテロリスト家族への給与支払いをアメリカは受け入れられないとして、停止を求めていた。

これに対し、アッバス議長は、給与は”正当な戦闘員”に対するものであると反論していた。

ティラーソン国務長官は、アッバス議長は、この政策をを変更すると約束したと主張したが、結局支払いはなされるとみられる。

www.jpost.com/Arab-Israeli-Conflict/Tillerson-suggests-Palestinian-Authority-will-change-policy-on-terror-funding-496773 

www.jpost.com/Arab-Israeli-Conflict/Israel-Tillerson-wrong-PA-still-paying-jailed-terrorists-496806

2)イスラエル政府は、一部C地区をB地区へ移行せよ

C地区とは、西岸地区の入植地、ならびに道路で、イスラエルが完全支配している地域。B地区は治安はイスラエルが守るが管理はパレスチナ自治政府という地域である。

トランプ大統領は、イスラエルに対し、一部のC地区をパレスチナ側へ移行するよう求めたと伝えられていた。

www.jpost.com/Israel-News/Politics-And-Diplomacy/Trumps-envoy-returns-amid-push-to-renew-direct-talks-493972

これを受けてかどうか、ネタニヤフ首相は、水曜、ネタニヤフ首相は、パレスチナ人の村カルキリヤの範囲を拡大する形で、C地区に、パレスチナ人の家屋14000戸を建設する許可を出した。

www.jpost.com/Arab-Israeli-Conflict/Israel-advancing-14000-Palestinian-homes-in-Area-C-right-wing-warns-496875

さらに、イスラエル政府はパレスチナ自治政府に、ラマラ、ヘブロン、ツルカレム、ジェニン、カルキリアの5つのエリアA地区から周辺C地区に向けて拡大することを許可するとの通達を行った。

www.jpost.com/Arab-Israeli-Conflict/Five-Palestinians-cities-to-expand-into-Area-C-497032

これを受けて、右派系議員、西岸地区入植地を管轄するユダヤ・サマリア地区の代表達は、「政府は、入植地拡大には及び腰なのに、パレスチナ人地域を拡大するのはどうしたわけか」と怒りをぶつけた。

C地区にパレスチナ家屋を建設するということは、将来、2国家分離案に向けて、パレスチナの地域をきめようとしているのではないかとも考えられ、1国家解決をめざす右派たちには、政府の裏切りともとれる動きである。

<イスラエルのとるべき道:リーバーマン防衛相>

リーバーマン防衛相は、今週はじめ、イスラエルのチャンネル2のインタビューに応じ、パレスチナとの合意は近いと語った。

その翌日、それが実現するにあたっては、「まずは、穏健派スンニ派勢(サウジアラビア勢力)との関係改善ありきで、それからパレスチナとの交渉という順番になる」と語った。

www.jpost.com/Arab-Israeli-Conflict/Liberman-Israel-Arab-normalization-first-then-Israel-Palestinian-peace-496634

今回のC地区にパレスチナ人家屋を建てるという策は、サウジアラビア勢力の好意を得る一手であるとも考えられる。

アッバス議長もまた、ハマスへの締め上げを行って、サウジアラビア勢力の好意を得る一手をすすめていると考えれば、リーバーマン防衛相が言うように、パレスチナとの交渉・合意は、本当に近いのかもしれない。

これに先立ち、スカットハレルのリック・ライディング師は、イスラエルが悪いたくらみに陥らないよう、とりなしが必要との警告も発していた。ネタニヤフ首相や、トランプ大統領を覚えるとりなしに使うみことばとして、以下の聖書箇所が提示されている。

(詩篇9:13-15、35:4-9, 57:6、119:110、124:1-8、140:4-11、142:2-7)

<右派と左派:それぞれのビジョン>

イスラエルには右派も左派もいる。同じイスラエルのユダヤ人でも、皆が同じ方向を向いているとは限らない。

右派は、パレスチナ人との共存はもはや無理と考え、1国家解決、つまり、イスラエルがエルサレムも西岸地区も全部を支配するべきと考えている。今のネタニヤフ政権は、史上最も右派と考えられている。

数年前、右派シオニストの投資家が発起人となり、一部の右派閣僚も加わって、5800/2050と名付けられた大エルサレム構想が発表された。

それによると、エルサレム市は、今より拡大し、旧市街(神殿の丘)を中心に、ちょうど玉ねぎのように、5つの層に囲まれる形で市境界線が定められている。

エルサレム市に入る主要道路にはゲート(門)が6か所あり、町は、道路のほか、地下鉄と、エルサレム空港もある。

この計画の主要な推進メンバーで、エルサレム市議会議員のアリエ・キング氏は、こうしたエルサレム市の開発の最終目的は、神殿の丘に、ユダヤ人の神殿が再建されることであると明言した。

キング氏は、エルサレムの魅力は、神であり、聖書である。世俗的なフェスティバルを数多く催してエルサレムへの来客を増やそうとする今のバルカット市長の方針には賛成できないと語る。

では最終目標が第3神殿であるとして、今の黄金のドームはどうなるのかとキング氏に聞くと、「それはどこかへ移動させる。」とあっさりと答えていた。

いうまでもなく、エルサレム5800は、パレスチナ人の存在をほぼ無視する形で成り立っており、少なくとも現段階では、とてもなしうることのできない夢物語である。

当然、イスラエル政府、エルサレム市が公式に認めるものではないが、エルサレム遺産相、観光相の閣僚2人は推奨している。

一方、左派は、西岸地区を”占領”していることこそが、パレスチナ人のみならず、イスラエル人をも苦しみに追い込んでいるとして、イスラエルを救うためには、”占領”をやめなければならないと考えている。

具体的には、右派と違って2国家解決を支持。つまり、東エルサレムを含む西岸地区は、全部がパレスチナとなり、入植地は全部、西岸地区から撤退するべきと考えている。

左派たちは、ベツァルエルや、ブレーキング・ザ・サイレンス、SISOといった組織を立ち上げ、イスラエル政府や、西岸地区におけるイスラエル軍兵士の”悪いしわざ”を摘発することにいそしんでいる。

その活動を通して、一人でも多くのイスラエル人に、今の右派政権は間違っているということを分からせたいのだという。

では、その行為を通じて、本当に西岸地区からイスラエルを撤退させるという明確なビジョンがあるのかといえば、実際には無理だろうということもわかっているのか、「私たちが訴えているのは、”占領”が悪いということであって、解決策を論じているのではない」と言っていた。

つまり、右派も左派も、現実的な解決策を提示してるとはいえないということである。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

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