ハマス人質解放延期宣言でガザ戦闘再開の危機:テルアビブでは高速道路封鎖の反政府デモ 2025.2.11

Members of the Izz ad-Din al-Qassam Brigades, the Hamas terror group's military wing, attend the funeral of two fighters in Gaza City on January 24, 2025. (Omar al-Qattaa/AFP)

ハマスが今週末の6回目人質解放の延期表明

ハマスは2月10日(月)、イスラエルが合意に違反しているとして、2月15日(土)に予定していた、6回目人質解放を、“次に通知するまで”延期すると発表した。

ハマスが合意違反と指摘するのは、第一段階開始後16日目に始めることで合意していた、第二段階の交渉に、イスラエルがまだ代表団を派遣していないことをあげている。

また、停戦とともに搬入すると約束していた人道支援物資の搬入を、イスラエルが妨害していると主張している。これについては、イスラエルは否定している。

しかし、これに先立ち、ネタニヤフ首相は、第一段階をできるだけ引き伸ばして、人質を全員取り戻したところで、ハマスへの総攻撃を行うとの見方もあった。

また、こうした中で、トランプ大統領が、ガザ所有してガザ市民を全員、ガザの外へ再定住させるといった非常に大胆な案を発表し、ネタニヤフ首相はこれを賞賛していた。ハマスとしては、イスラエルには、交渉を続ける気があるのか確かめる必要があったのかもしれない。

今の所、ハマスは、条件が満たされたら、予定通り解放するとも述べている。

また、この発表が、人質解放の5日前と、十分修正の時間も置いていることから、ハマスの真意は、仲介者に対し、イスラエルに合意事項を履行させるよう、圧力をかけただけであって、合意から離脱すると言っているのではないとの見方もある。

www.ynetnews.com/article/r1g2dkuk1l

しかし、一方で、トランプ大統領のガザ案が出たとき、ハマスは激怒し、イスラエルとの合意を破棄すると言っていたとの情報もあった。

また、ハマスの発表が出された2月10日(月)は、1979年のイラン革命の46回目の記念日であり、テヘランでの特別イベントに出席していた、ハマスの指導者の一人、カリル・アル・ハヤは、「トランプのガザ案は崩壊する運命にある」と述べていた。合意を破棄してイスラエルと戦う意志も否定できないといえる。

イスラエルとハマスの合意崩壊の危機:イスラエルは厳戒態勢へ

ハマスが、今週末の人質解放を行わないと発表したことを受けて、ネタニヤフ首相は直ちに閣議を招集。カタールにいた代表団も帰国させた。

続けて11日(火)には前倒しで防衛閣議を開催する。カッツ国防相は、「人質の解放を遅らせたハマスは明らかに合意違反だ。」として、イスラエル軍にガザでの攻撃準備と、国境周辺のコミュニティの防衛を指示した。ベン・グビル氏はじめ右派政治家たちも戦闘再開を求めるとの声明を出した。

人質家族たちがテルアビブで反政府デモ:高速道路封鎖

ハマスの発表後、人質家族フォーラムは、仲介国に対し、「私たちはイスラエル政府とともに立って、合意の遵守を要求する」として、ハマスとの合意とこれからの交渉を維持するよう要請を出した。

www.timesofisrael.com/hamas-says-its-delaying-next-hostage-release-claiming-israeli-truce-violations/

また夜には、テルアビブで、主要高速道路を封鎖して、政府に対し、開かれたドア(交渉)を閉じないように訴えるデモが行われた。

特に、解放された人質からの情報で、アロン・オヘルさん(24)が、今も生きているとがわかった以上、交渉が先延ばしになって、死んでしまうようなことは、絶対にあってはならない。母親のイディットさんは、デモに集まった人々に必死の思いを訴えた。

www.timesofisrael.com/protesters-block-tel-aviv-highway-demanding-israel-not-endanger-hostage-deal/

また、最新のニュースによると、今日11日、ガザで人質になっている双子のガリさんとジフ・バルマンさん(27)の家族は、2人が生きているという情報を得たとのこと。

一方で、ガザで人質になっているシュロモー・マンソールさん(86)の死亡が確認されたと家族に伝えられた。いつ、どのように殺されたかは明らかにはなっていない。

ハマスが人質解放の延期を発表したのは、最後に解放された3人の人質が、ホロコーストを連想させるほどの衰弱した様子で解放されたことから、家族たちが政府に対し、とにかく、残されている人質全員急いで奪回するよう、訴えた直後のことであった。

ハマスの恐るべし心理作戦が続けられている。

石のひとりごと:ハマスの心理作戦にみる陰湿な悪意

中東での交渉では、こちらが一つ引けば、相手はどんどん要求を出してくるものである。今ハマスの追加要求に応じれば、もっと譲歩させられることになるだろう。また今、トランプ大統領が、味方に立っているので、ネタニヤフ首相はが、ハマスに譲歩する可能性は低いのではないかと思われる。

となると、このまま戦争に入れば、残りの人質はどうなるのか・・。いったい、ハマスはどこまでイスラエル人を傷つけたら気が済むのだろうか。

また、まだ生きているかもしれない家族の命が、交渉の天秤にかけられている状況をどう受け止めたらいいのか。家族たちは、政府に怒りをぶつけるしかないが、皮肉にも、それが、敵に利用されているようにも見える。

あまりの悪意に、やはりハマスやイランの背後に悪魔的な存在を思わされる。霊的戦いである。

www.timesofisrael.com/protesters-block-tel-aviv-highway-demanding-israel-not-endanger-hostage-deal/

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。