テロの波続く:テロリストと間違われてユダヤ人死亡 2015.10.22

パレスチナ人の若者によるテロの波はおさまりをみせず、その数は増えつつある。傾向としては、警護が厳重になったエルサレム市内でのテロは落ち着きを見せているが、西岸地区やエルサレム周辺でのテロが増えている。

東エルサレムからのテロリストが出て来なくなったのを受けて、エルサレムでは、イスラエル兵の市内警護が続く中、一部のアラブ地区との境に、道路封鎖の目的で置かれていた大きなコンクリのブロックが除去された。

アルモン・ハナチーブとジャベル・ムカバの間にあった防護壁も除去された。「テロをしないなら、すぐにでも道路封鎖は解除する。」という、イスラエルからのジェスチャーである。

しかし、イスラエル市民の心理に対する影響は、そう簡単に解除できるものではない。いつどこからテロリストが現れるかわからない状況の中、ユダヤ人がテロリストと間違われて治安部隊に射殺されるという悲惨なケースも発生している。

<火曜:テロ4件でユダヤ人1人死亡、パレスチナ人4人射殺> http://www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4713757,00.html

火曜夜、ヘブロン近郊でパレスチナ人2人がイスラエル兵をナイフで刺し、付近にいた別の兵士に2人とも射殺された。15才と17才。この後、この地域では暴動となっている。

これに先立ち、同じくヘブロン近郊のキリアット・アルバでは、アブラハム・アシュル・ハサノさん(50)が、60号線(西岸地区を走る幹線道路)石を投げられたため路肩に急停止した。アブラハムさんは、車から出たところをトラックにはねられて死亡した。パレスチナ人のトラックの運転手は後に、パレスチナ自治政府に自首している。しかし、これがテロであったかどうかは不明。

エルサレムとベツレヘムの間の入植地グッシュ・エチオン。(昨年3人のユダヤ人少年が誘拐・殺害された町)バスを待っていた人々に突っ込んだ。バス停には、こうしたテロを防ぐための大きなグロックが置いてあるが、車はそれに乗り上げたものの、ユダヤ人2人が負傷した。

この後、テロリストが車からナイフを持って出て来て人々に遅いかかったため、治安部隊が射殺した。この他、兵士をナイフで襲う事件が2件あり、どちらのテロリストもその場で射殺された。

<水曜:テロ5件でユダヤ人5人負傷:パレスチナ人2人射殺> http://www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4714267,00.html

上記と同じ60号線グッシュ・エチオンエリアで、イスラエル兵5人の車が投石された。兵士5人と後続車の兵士も共に投石犯を探し始めたところ、パレスチナ人の車が猛スピードで兵士らにつっこんできた。このテロで、兵士5人が負傷した。

負傷しなかった6人目の兵士が反撃し、テロリストを射殺。負傷した5人のうち、2人は中等度の負傷。

午後には、西岸地区ベニヤミン地域のアダムで、女性兵士(19)が刺されて重傷となった。別の女性兵士がこのテロリストを射殺。テロロストの体に時限爆弾が仕掛けられている可能性があったため、一時周辺立ち入り禁止となった。

これに先立ち、ナブルス近郊のイズハルで、パレスチナ人少女(15)が、ナイフを持って入植地イズハルに侵入しようとしていたため、治安部隊に撃たれた。少女は重傷で手当を受けている。

*テロリストと間違われてユダヤ人射殺される:エルサレム

水曜夜、エルサレム市内のバス停で、治安部隊の銃を奪おうとしたとして、男性が射殺された。後にこの男性は、精神的に不安定だったとみられるユダヤ人であったことが判明した。

パレスチナ人テロリストと間違われてユダヤ人が撃たれる事件は先週にも発生している。このユダヤ人男性は負傷したが命はとりとめた。

*テロリストと間違われて撃たれたエリトリア人男性をリンチしたユダヤ人4人逮捕:ベエルシェバ

月曜、ベエルシェバの中央バスステーションで、銃の乱射テロが発生し、イスラエル兵(19)が死亡。11人が負傷した事件。当初テロリストは2人とみられ、1人(21)は治安部隊が射殺。もう一人も重傷を負わせた。

周辺にいた市民らは、怒ってこの重傷の男性を殴る蹴る、イスを投げつける、つばをはきかけるなどリンチし、男性は翌朝死亡するに至った。

ところが、この男性は、テロリストではなく、周囲の人々と同様に、テロから逃げようとしていた無実のアフリカのエリトリア人であったことがわかった。これを受けて警察は、リンチした者たちの捜査を開始。水曜、ユダヤ人4人を逮捕した。

なお、射殺されたテロリストムハナド・アルカビ(21)はI、ベドウインで、SISの影響を受けたいたとチャンネル2は伝えている。

<木曜朝:ベイトシェメシュ初のテロ>

エルサレム西の町、ベイトシはェメシュのシナゴーグ前のバス停で、イシバ学生がパレスチナ人2人に刺された。近くにいた市民がテロリストをつきとばしたところ、駆けつけた警察官が2人を撃った。2人は重傷で病院に搬送された。ベイトシェメシュでは初のテロとなった。

<テロ被害者のその後>

テロ被害で負傷した人々のその後についてはあまり報道がないが、2つほどあったので、報告する。

エルサレム北部ピスガット・ゼエブで13才と15才のパレスチナ人に15回以上も刺されて、意識不明の重体になっていた、ユダヤ人少年(13)が、意識を回復し、状態が安定してきたとのこと。

アルモン・ハナチーブで78番のバスが襲撃されたテロで、ナイフに刺された女性マリケ・ベルドマンさんは、テロリストに刺されたとき、「イエスさま助けて!」叫んだとの証言していることから、イエスを信じる女性であったことがわかった。

マリケさんは、32年前にアラブ人孤児の世話をするホームを設立しており、これまでにイスラム教徒、クリスチャン双方の家庭に問題のある子供たち20人を育てている。

テロでマリケさんが負傷したと聞き、マリケさんに育てられ、今はアメリカで自立しているアラブ人女性が駆けつけてベッドサイドで世話をしている。

マリケさんは、テロリストの犯人についてかわいそうに思うと言っている。またアラブ人に対しては、今後彼らの対する信用を取り戻すのに時間がかかるとも言っている。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4713456,00.html

<石のひとりごと>

最近、一日1回かそれ以上、救急車のサイレンを聞く。全部がテロ事件ではないのだが、一瞬、腹の悪い思いがする。今日は、私が利用するバス停に早朝から、イスラエル兵が2人立っていた。夜帰って来た時も別の兵士2人が立っていた。ご苦労なことである。

テロに対する恐怖心はないが、なんともいえない不愉快な思いが続く。いかにも異邦人で危険のない私ですらそう感じるのだから、狙われるユダヤ人にとってはもっと不愉快である。ユダヤ人たちの会話を聞いていると、恐怖だけでなく、当然怒りも出て来る。

この異常事態が長引けば、テロリストに間違われてユダヤ人が殺されるという悲惨な事故も増えて来るだろう。殺された方も殺した方も、これからどのように生きて行くのかと思うと、心が痛む以上の話である。

しかし、パレスチナ人とユダヤ人は外見がそれだけ似ているということも特記すべきことだろう。仲良くできるはずの兄弟が骨肉の争いをしているという悲しい現状だ。

それにしても、パレスチナ自治政府のアッバス議長は、ここ数日、沈黙である。仮にテロにいかなる”正当”な理由があると主張したとしても、15才や17才がこうしたテロと起こすことを異常ではないと考え、彼らを止めないという方が、それだけで、すでにかなり異常であると、筆者は思う。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

コメントを残す

*