エルサレム近郊パレスチナ人の自殺テロ:イスラエル人3人死亡 2017.9.30

9月26日、エルサレム北部ハル・アダールで、パレスチナ人による銃撃テロが発生した。これにより、イスラエル人国境警備員ら3人が死亡。1人が重傷を負った。

ハル・アダールは、エルサレム北部だが、正確には市の境界線の外にある。このため、西岸地区の入植地という位置付けで、その産業地帯はシーム・ゾーン(境界地帯)と呼ばれる。ここには、毎日、多くのパレスチナ人労働者が働きに来ている。

事件があったのは、26日火曜日早朝。警備員たちが、ハル・アダールの門を開き、パレスチナ労働者たちを入場させはじめたころだった。

この時、怪しげなパレスチナ人が近づいてきたので、静止させたところ、いきなり銃を取り出し、近距離から国境警備員らに発砲した。テロリストはこの直後、近くにいた国境警備員に射殺された。

このテロで犠牲となたのは、国境警備隊員のソロモン・ガブリヤさん(20)、警備員のヨセフ・オトーマンさん(24)、オール・アリシュさん(25)。ハル・アダール住民のアミット・ステインハートさん(33)は重傷を負ったが、命はとりとめた。

<テロを利用した自殺>

このテロ事件の直後、ハマスが、インティファーダのはじまりだと声明を発したが、実際には、組織絡みではなく、自殺をもくろんだ単独テロ事件であったことが明らかになった。

犯人は、西岸地区ベイト・シュリックに住むパレスチナ人、ニメール・ジャマル(37)で、4人の子供の父親だった。犯罪歴はなく、シーム・ゾーンでの労働許可を持っており、表向きはきわめて”普通”のパレスチナ人だった。

しかし、ジャマルには、家庭内暴力があり、妻は、数週間前に、子供をつれてヨルダンへ避難していた。ジャマルは、犯行に及ぶ前、妻に謝罪とともに、子供を頼むとのメッセージをフェイスブックを通して送信していた。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5022396,00.html?utm_source=Taboola_internal&utm_medium=organic

しかし、後の調べでは、ジャマルが、銃撃の訓練を受けてから犯行に及んでいたことが明らかとなり、イスラエル人を殺害してヒーローとして死にたいと考えていたとの計画性もみられる。なお、犯行に使われた銃は、2003年に盗まれたものだった。

<難しい対処>

ハル・アダールには、数百人のパレスチナ人が、イスラエルの労働許可をもらって、働きに来ている。事件発生直後、新たなテロを防ぐため、すでに中に入っていたパレスチナ人は一箇所に集められた。

しかし、この人々はここで働いて家族を養っている普通のパレスチナ市民である。彼らを早急に追放するなどの処置をとると、かえって関係悪化が進み、テロを促進させる可能性が指摘された。結局、この人々の労働許可は剥奪せず、続けてハル・アダールで働くことになるもようである。

しかし、テロリストの居住地ベイト・シュリックについては、事件発生直後に警察が包囲。中に捜査に入り、犯人の兄弟を含め、関係者とみられる者を逮捕した。この時に、衝突が発生したほか、ハル・アダール周辺のパレスチナ人の村では、その後も暴動が発生している。

パレスチナ人になりすました覆面姿の国境警備隊員が、暴動を起こしている者たちを逮捕したとも伝えられている。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5021069,00.html

ネタニヤフ首相は、ジャマルの実家は破壊することと、家族親族にいたる全員の労働許可は剥奪するとの方針を閣議で明らかにした。今回は組織ぐるみではなく、単独の自殺テロであったこと、時期的にもちょうど例祭シーズンの真っ最中でもあったため、あまり大きな対処はしない方針になったようである。

<リブリン大統領がソロモンさん家族を慰問>

社会はもはやこの事件を取り上げていないが、息子たちを失った家族にとっては、すべてがストップしていることだろう。

今回犠牲となった国境警備隊員のソロモンさん(20)は、エチオピア移民で、1年前、この地区で自分もナイフで刺されながら、テロを未然に防いだという経歴を持っていた。その後、家族の反対を押し切って、18ヶ月前に国境警備隊に復帰していたという。

この家族にはまだ2人の息子がエチオピアにいるということで、イスラエル政府はただちにこの2人に連絡を取り、29日金曜、2人はイスラエルに到着した。

リブリン大統領は、息子を失ったロソモンさん宅を訪問し、「息子を失った母親にかけることばはない」と家族らを慰めた。

www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/236088

自殺の道連れにされて、大事な若者たちを失った家族の想いは、想像に耐えない。イスラエルにとっては、まさに大迷惑である。また突然の行為で犯人自身の妻や子供達、家族親族に与えたこれからの苦難もまたはかりしれない。あまりにも悲惨きわまりない事件である。

*国境警備隊とは、警察の一部署で、イスラエル軍ではない。主にエルサレムを警護している。しかし、最近、国境警備隊員が数多く犠牲になっているため、彼らもイスラエル軍戦闘部隊戦死者と同じ保障制度を適応することが検討されている。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

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