イスラム国をめぐる非常に複雑な国際情勢 2014.9.3

シリアとイラクで猛威をふるっているイスラム国だが、国連は、「イスラム国が、想像を絶する残虐行為を行っている。」とする調査結果を明らかにした。虐殺、強制改宗、性的虐待、奴隷化などである。

虐殺は日夜続けられ、8月だけで少なくとも1420人が死亡。8月だけで85万人が難民となり、この3ヶ月で160万人のイラク人が家を追われて難民となった。
www.theguardian.com/world/2014/sep/01/un-investigators-iraq-islamic-state-atrocities

複数の町がイスラム国に長期間包囲されたまま、食料や水の補給もない中、恐怖におびえる毎日を送っている。そうした町の一つでバグダッドに近いアメルリが、11週間ぶりにイラク軍とクルド軍(アメリカ軍、イラン軍も協力)によって解放されるなど、激戦が続いている。

イスラム国はこれまでにシリアとイラクの3分の1を制圧。油田を制圧し、莫大な資金もある。押収したISISのコンピューターからは、生物兵器に関するデータがあり、イスラム国が生物兵器に手を出しはじめていると懸念されている。

先月アメリカ人ジャーナリストが、首をはねられて死亡したが、2日、さらにもう一人のアメリカ人記者が同様に首をはねられる映像がネット上に流された。オバマ大統領に対し、「イスラム国を攻撃しているからだ。」と挑戦している。

<複雑なイスラム国と諸外国の関係>

イスラム国は、カリフ制をとっており、かつて世界をまたにかけていたイスラム帝国を彷彿とさせる動きをしている。そのため、多くの若者たちをイスラムへとリバイバルさせ、次々にメンバーを増やしている。

アルジャジーラによると、現在、シリアにいるイスラム国メンバーは5万人。このうち2万人はシリア人ではないという。

また、8月だけであらたに6000人が加わったが、このうち、1000人は外国人(チェチェン人、中国人、ヨーロッパとアラブ諸国)である。これらがそれぞれの祖国に帰ってイスラムの大義のためにテロを行うと警戒されている。

www.theguardian.com/world/2014/sep/01/un-investigators-iraq-islamic-state-atrocities

こうした状況で大いに脅威を感じているのがイラン。イランはイスラム国がスンニ派であるのに対し、シーア派だ。イスラム国はやがてはイランを攻撃して来るだろう。イランは、すでに戦車隊をイラクに派遣して、イスラム国と戦っている。

これとは無関係を主張しながら、同じくイスラム国と戦っているのがアメリカ軍。イラクでは空からはアメリカ軍、地上ではイラン軍が、互いに無視しあいながら、共通の敵イスラム国と対峙するという奇妙な現象になっている。

ここでさらに事態を複雑にしているのが、ロシア。ロシアは、アメリカの批判をよそに、シリアのアサド政権に軍事支援して来た立場。今はイラク領内に独自のドローンを飛ばすなどして、シリアとともにイスラム国に対峙している。

つまり、アメリカとロシア、イランという互いに敵対する国々が、イスラム国という共通の敵と、互いの協調することなしにばらばらに戦っているという混乱ぶりである。

また現在、注目されるのはイギリスの出方。先にアメリカ人ジャーナリスト2人を殺害したイスラム国メンバーはロンドンなまりの英語で次はイギリス人だとほのめかしている。

イギリスでは、すでにイギリス人500人ほどがイスラム国に参加しているという事態になっており、今後、それらがイギリスに入国しないよう対処をせまられているところである。

もし、アメリカ人に続いてイギリス人が殺害された場合、イラクでの戦いにイギリスもひこまれるのではないかと懸念されている。

<ウクライナ情勢との関連>

東ウクライナでは、欧米との関係を重視するウクライナとロシアとの関係を重視する反政府勢力が戦争となっているが、ロシア軍の介入が明白になる中、ロシアと欧米の関係が急激に悪化しつつある。

オバマ大統領は、イスラム国に対処するかたわら、今日からはウクライナ問題でヨーロッパでの会議に出席する。

もし、この問題で米露の関係が悪化した場合、シリアやイラクでの戦いにも影響してくるだろう。どこから火を噴くかはわからないが、第三次世界大戦という事態にまで発展しそうな状況になりつつあるようである。

<イスラエルとしては。。。?>

イスラエルは大混乱のシリア情勢がまずたった今の脅威である。現在、イスラム主義勢力がイスラエルとの国境からわずか数百メートルのところを占領している。これらがイスラム国にとってかわられる可能性も否定できない。

しかし、広範囲で見るならば、イスラム世界が内部で互いに戦っている間は、イスラエルに戦いを挑む余裕がないので、いわば好都合ということになる。

怖いのは、いつか強大な一つのグループが出て来てイスラム世界を統一してしまう時である。そのときはそれがイスラエルを攻撃して来ることになる。そうした意味でイスラエルは、今のイスラム国がどういう動きになっていくのかを非常に注意深く注目している。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

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