目次
極右ユダヤ人入植者のパレスチナ人への暴力:強硬シオニズムの問題

ここ2年ほどの間。ヨルダン川西岸地区では、入植者(セトラー)と呼ばれる、過激な極右右派ユダヤ人のユースたちが、パレスチナ人の居住地に入って、家屋や車に放火するというテロ行為が増えている。
死傷者が出ている他、移動を余儀なくされるパレスチナ人も出ている。
イスラエル国内では、ユダヤ人地区に比べて、アラブ人地区の治安にあたる警察が少ないとの指摘もある。アラブ人地区では、部族間闘争、家族間でも殺人が頻発しており、今年に入ってからだけで、すでに102人が死亡している。
こうした動きは、西岸地区を含めイスラエル全土は、神がユダヤ人に与えた土地だと主張する強硬なシオニズムに基づいており、パレスチナ人を排斥するための動きとみられている。
しかし、現在、イスラエルでは、警察を管轄する省庁のトップは、極右政治家のベングビル氏であるため、西岸地区で暴力行為に出ている入植者たちの取り締まりはほとんどなされていない。逮捕されてもすぐに釈放されている。
それどころか、国防省は、西岸地区に新たな入植地21か所の開発を承認したところである。これについては、強硬なシオニストで、経済相を努める宗教シオニスト党の党首、スモトリッチ氏も大きく関わっている。
こうした一連のイスラエル政府の措置は、パレスチナ人の国(首都は東エルサレム)を立ち上げてイスラエルと共存させようとする国際社会の意向に大きく反するものである。
イギリスなど5カ国が極右政治家ベングビル氏とスモトリッチ氏へ制裁発動

こうした中、6月10日(火)、イギリス、カナダ、オーストラリア、ノルウェー、ニュージーランドの5国が、ベングビル氏と、スモトリッチ氏の個人資産を凍結し、入国も禁止するという制裁を発動すると発表した。
これを受けて、ベングビル氏は、1939年にイギリスが、ナチスの迫害からパレスチナ地方へ逃れようとするユダヤ人の移住を厳しく制限する白書を出したことことと今回の制裁を比較し、イギリスがまたユダヤ人を迫害しようとしていると述べた。
「私たちはファラオを生き延びたのだから、スターマー(イギリス首相)にも負けない」とXに投稿していた。
サル外相が、他国の閣僚に対する措置としては受け入れられないと発表。左派で野党のガンツ氏までもが、ベングビル氏とは同意していないとしながらも、テロと闘っているイスラエル政府閣僚に制裁を加えるイギリスの措置は、全世界への悪いメッセージだと表明した。
イスラエルの野党政治家とアメリカも制裁を非難

これに対し、アメリカのマイク・ルビオ国務長官は、イギリスなど5国の動きを非難。これは、人質を解放させ、停戦に導こうとするアメリカの交渉を妨害するものだと表明した。
イギリスが言っているのは、西岸地区に関することで、ルビオ国務長官はガザのことを言っているのではあるが、ルビオ国務長官が言いたかったことは、今は、イスラエルと肩を並べる時だということである。
アメリカの在イスラエル大使のマイク・ザッカビー氏(福音派)はもっと踏み込んだ発言をしていた。何か文化的な大きな変化がない限り、今の状況で、ホワイトハウスが、全力でパレスチナ国家を支持することはないと語った。
パレスチナ国家の設立がゴールになると思うかと聞かれると、そうは思わないと答えた。
また、イスラエルはニュージャージー州ほどの小さな領域しかないのだから、その644倍の領土を持つ、アラブ諸国が少し土地をわけたらいいのではないかとも語った。
www.timesofisrael.com/us-envoy-no-room-for-palestinian-state-in-west-bank-under-current-conditions/
これに対し、オーストラリアのアルバネーゼ首相は、イスラエルとアメリカが反発することはわかっていた。しかし、二国家解決案こそが地域に平和をもたらすと信じているとし、ベングビル氏たちの発言はこれを妨害するものだと述べた。
ベングビル氏とスモトリッチ氏反撃:標的はパレスチナ自治政府の経済崩壊
イギリスなど5か国が、ベングビル氏とスモトリッチ氏の個人資産を凍結したことに対し、経済相であるスプレッ氏が反撃に出た。
パレスチナの銀行に、イスラエルの銀行との取引継続の約束を反故にすると言ったのである。
パレスチナは、自国の通貨を持っておらず、イスラエルのシェケルを通過として使っている。ビジネスはすべてシェケルベースであり、2023年中に自治政府が、イスラエル銀行と取引した額は530億シェケル(約2兆2000億円)であった。
もし、銀行を介するシェケルの移動が補償されなくなった場合、パレスチナは現金のみの社会となり、一気に経済は崩壊することになる。
スモトリッチ氏は以前にもこの方法で、自治政府経済を崩壊させようとしたが、治安に関わってくるとの国防省からの警告で、これを諦めた経過があったという。それを今、やろうとしているということであり、パレスチナ自治政府の経済が崩壊しかねない事態である。
しかし、パレスチナ自治政府は、イギリスなど5カ国のイスラエルへの措置には、全く関与していなかったという。突然、大きな問題がふりかかって来た形である。
しかし、今、イスラエルでは、現政権を解散させる動きが、与党ユダヤ教政党から、また野党からも出ており、今後どうなっていくのか、注目される。
石のひとりごと
強硬右派シオニストと福音派のつながりが、明確になりはじめている。しかし、よいイメージではなく、強硬なイメージであり、イスラエルが孤立するとともに、熱心な福音派もまた、世界から孤立していくかもしれない。
何が主のみこころなのか、それぞれが、見極めて行かなければならない時代に入っている。