国家民族法で課題噴出:ドルーズ10万人デモ 2018.8.6

ラビンスクエアでのドルーズデモ 写真出展:Ynet
7月19日に国会審議を3回通過して基本法にとりいれられた国家民族法(Nation State Law)。

イスラエルはユダヤ人の国と定義する法律だが、安息日やユダヤの例祭を国の祭日とし、アラビア語は公用語からはずして格下げになる他、国の自決権はユダヤ人に帰属するとされていることから、差別的だとして、少数民族から不満が噴出している。

特にイスラエルに忠誠を誓い、イスラエル軍や、国境警備隊にも従事し、多数の戦死者を出してきたドルーズ族からの反発が大きい。国家民族法が確定以来、ドルーズのイスラエル軍将校2人が、「この国に命をかける気が無くなった。」として、辞任を表明した。

アラブ系市民からも、この法律で、運転免許証の記載がヘブル語だけになるとか、これまで以上に、ユダヤ人地区とアラブ人地区へのインフラ整備や教育への差が拡大するんではないかなど、本来の論点ではない論議にまでひろがっている。

<ネタニヤフ首相の方針とドルーズ指導者の反応>


ネタニヤフ首相は、ドルーズとの交渉を行うチームを立ち上げ、1日、長老たちとの交渉を始めた。基本的に、すでに法律となった国家民族法に変更を加えるつもりはなく、新たな妥協案をもって話をまとめようとしているのである。

ネタニヤフ首相は、国家民族法受け入れの見返りとして、①ドルーズの治安部隊の貢献を認める、②ドルーズの宗教、教育、文化を支援する,③ドルーズの居住を推進し、必要なら新しい居住区を認める、加えて、ドルーズの文化遺産保護にも言及した。

一部のドルーズ指導者は、これを「歴史的譲歩」として受け入れたが、信用できないとはねつけたものもあり、交渉はまとまらなかった。

https://www.haaretz.com/israel-news/.premium-nation-state-law-backlash-netanyahu-offers-druze-new-legislation-1.6338137

結果、4日(土)、予定通りテルアビブで大きなデモが行われた。10万人とみられるドルーズ族とその支援者が、ドルーズの旗やイスラエルの旗を振りかざして、「我々はこの国の建設に大いに貢献してきた」と主張。平等な扱いを訴えた。

ドルーズたちは、ハティクバを歌い、「イスラエルはユダヤ人の国で民主国家」であってほしいと訴えた。イスラエルがユダヤ人の国であることに、異論はないわけである。

https://www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5322434,00.html

<なぜ今、このような法ができたのか>


イスラエルがユダヤ人の国であるということは、独立宣言に明記されている通りで、あえて法律で明言しなくても、明らかなことである。またこの点が動かされることはない。

また、イスラエル人の20%は、アラブ人であり、厳密にいえば、ユダヤ人が誰かという点も明確な定義が難しい。このため、イスラエルでは、これまで、基本法の中で、ユダヤ人の国と定義せず、「イスラエルは、ユダヤ人の国で民主国家」と、この2点が等しく力点を持つという認識で、国が運営されてきたのであった。

しかし、ヘブライ大学のタウブ博士によると、7年ほど前から、イスラエルはユダヤ人の国であることを法律で定義する必要が論じられ始めたという。

左派議員らが、右派勢力主導の政治運営について、基本的人権をベースに、最高裁に訴える件数が増えてきたからである。左派議員らは、国のユダヤ性を重視する右派政権の方針は、ユダヤ人以外の国民の人権に反すると訴えていた。

これが強調されすぎると、ユダヤ人にのみ認められている帰還法が危うくなってくる可能性がある。帰還法とは、ユダヤ人ならだれでもイスラエルの国民としての権利を有するという法律である。

イスラエルは民主国家であるが、その前に、ユダヤ人が世界で唯一主権を持つ国として立ち上がった国である。ユダヤ人だけにこの権利があると言ってもなんら問題はないはずだが、民主主義の視点からみると、イスラエル在住のアラブ人に対して100%正しいとは言い切れないだろう。

実際のところ、ユダヤ人の国で民主国家は、両立しきれないものなのである。

また、パレスチナ問題においても近年、二国家二民族(国を2つに分ける)案はもはや不可能だとの認識がひろがっている。では、一国家案を推進した場合、イスラエルが、西岸地区やガザ地区を併合することになり、たちまちユダヤ人が多数派でなくなる時代が来てしまう。

右派が恐れたのは、最近、最高裁が左寄りになりつつあることである。もし、最高裁が左派らの訴えを支持し、右派政府に改善を求めることでもあれば、今のままの、「ユダヤ人の国で民主国家」という定義だけであれば、人権保護の点から、本来のアイデンティティが揺るがされる可能性も否定できない。

このため、右派がパニックとなり、急遽、イスラエルは、ユダヤ人の国であり、国の自決権はユダヤ人に帰依するると定義する国家民族法が、出してきたということである。

今回、国家民族法が基本法に書き記されたことで、たとえ、将来、アラブ人が多数派になったとしても、国の自決権、つまり国の運営は、ユダヤ人が行うということが法律で保障される。実際のところ、イスラエルとしては、いずれは必要になった法律であろう。

しかし、タウブ博士だけでなく、INSS(国家治安研究所)も、政府は、国家民族法によって、少数民族の権利や平等が守られることを確信させる文言を加えるなど、国の分裂を防ぐよう、対処を講するべきであると提言している。

http://www.inss.org.il/publication/ramifications-nation-state-law-israeli-democracy-risk/

<ユダヤ人だけは国を持つことが赦されない:ガディ・タウブ博士/ヘブライ大学>


タウブ博士は、イスラエルにいるアラブ人もドルーズも、どの中東諸国にいる同胞よりも恵まれているということを忘れてはならないと指摘する。同じパレスチナ人、同じドルーズでも、シリアにいる場合は、デモどころか、なにもしなくても、ただただ殺されている。

また、現在、ネタニヤフ政権下では、「Resolution922」という、アラブ系市民の経済活性化のためのプロジェクトが2016年からすすめられている。5年間の予算は3億3000万シェケル(約100億円)である。

http://iataskforce.org/sites/default/files/resource/resource-1462.pdf

タウブ博士によると、現ネタニヤフ政権は、これまでのどの政権よりも、アラブ系市民に投資しているという。にもかかわらず、今、彼らの権利や平等が求められるとは、なんとも皮肉だと語る。

また、タウブ博士は、「どの国にも少数民族はいるが、多数派が自決権を持つことに異論が出る国はない。たとえば、イタリアにも少数民族がいるが、多数派のイタリア人が自決権を持っている。それに疑問を挟む人はいない。

要するに、ユダヤ人だけは、自分の国を持つことを赦されないということだ。」と語った。